
休日の公園であった。
ベンチに座るのは私。前を通り過ぎるのは50代くらいのふくよかな女性でした。
気持ちのいい風が吹いています。私が眺めるこの池には、双子の河童が棲んでいるという伝説があります。さっきそこに立ててある看板に記してありました。私はそういった看板を読みます。読むタイプです。
双子の河童とはこれまた、と心を躍らせて池の前にあるこのベンチに腰掛けた瞬間、鼻から上だけを水面に出してこちらにガンくれてる双子の河童と目が合いました。
私がなぜすぐにこれは河童ですと理解したかといいますと、頭に皿を乗せたそのルックスもさることながら、幼少の頃の記憶のババアが私に至近距離で直接、「名物!双子河童でございます!」と幼少の頃の記憶のババアの声で語りかけてきたゆえです。抑揚の全くない声で。
私は大騒ぎしたい気分でした。名物の双子の河童に会えた。こんな経験はなかなかできるものではないですよ。現にこの出来事の後、私が世のためにしたことを、皆様が存じないとは言わせねぇぞ。
フランスパンを双子の河童に投げつけました。右側から私にガンくれてる河童の皿をちょっと掠めてフランスパンは、ちゃぽりと水面に落ちプカプカと船のように浮かんでおりました。
左側から私にガンくれてる河童は水面に落ちて船のような、さしずめ巨大戦艦フランスパン丸のようになってプカプカ浮かぶフランスパンを尻目に殺すと、より怒気を強めた眼差しで私にガンをくれるのでした。
なぜに初対面の双子の河童にここまでガン飛ばされなければならないのでしょうか。
伝説の生き物にしては少し態度が悪いのではないでしょうか。
もしや此奴ら、私がフランスパンを投げつけたことを知っている?
五月の嘘を根に持っている?
クスノキに咲く花を二毛作にする相談?
誰がセロハンテープを売っていた?
もしや此奴らの母親は、幼少の頃の記憶のババア?
なにを今更。
戦争や、これはもう。
私は残りのフランスパンをすべて、そう、地球上のすべての(嘘)フランスパンを両手両足にかかえ、まだ陽射しの強い九月上旬の水面へと飛び込んでいくのでした。きりもみを、加えて。
休日の公園での出来事です。